ぷろえんじにあ
技術者のキャリア連載リスト TOP
前回は、仕事のプロフェッショナルについて述べました。今回は、プロフェッショナルに必要なコンピテンシーとは何かについて簡潔にまとめてみた。
1. コンピテンシーの重要性
人の能力は点数だけでは測れるわけではない。しかし、現実の厳しさを実感してもらい継続教育やエンジニアのキャリア開発の重要性を訴えるため、ある企業で高い実績を上げ続けている研究・技術開発者の市場価値を選抜し、評価者の了解を取り付け、社外専門家に依頼してアセスメントを実施してみた。その結果、学歴や単なる知識は一部の職種を除いて評価されなかった。評価されていたことは、どのように成果を出しているのか、環境変化に対応できる適応力、リーダーシップ、マーケティング対応力、人材育成力、グローバルなものの考え方など、広義の「コンピテンシー（成果を生む思考・行動特性）」項目であった。仕事をする上で、いかにコンピテンシーが重要なのか認識させられた。
ソニーの人事部門では、同社で成果を上げた社員数十人について「コンピテンシー」（成果を生む思考・行動特性）を調査して、共通する行動原理を「先見性」「達成指向性」など11項目にまとめ、新卒採用に応用し、採用面接官のチェックポイントにしているという。面接実施の際に、ソニーで活躍できると考えられる人材に対して、共通の思考・行動特性を確認し、入社後に戦力となり得る学生だけを選抜して採用するわけである。評価基準や評価方法は若干のノウハウを必要とするが、これからの採用のあるべき姿として推奨している。
2. エジソンとコンピテンシー
エジソンは偉大な発明家として知られている。どのような発明法で白熱電球や蓄音機，映画などを生みだしたのだろうか。肉体的にも精神的にも努力して行動する人といわれている。日本でいえば，本田宗一郎とも評している人もいるくらいである。「快人エジソン」という本でまとめていることを拾ってみると次のようであった。
①既成概念や常識にとらわれない考え方をもつ。
②常識を軽蔑し，現場の実践を重視する。
③広い好奇心やパイオニア精神をもつと同時に執着心，対抗心をもち努力する。
④物事を全体として捉える発想を大事にし，じっくり観察し相互の関連を理解する。
エジソンの格言といわれるものとして「天才とは1%のひらめき（インスピレーション）と99%の努力（パースピレーション）のたまものである」がある。この格言は「努力が大切」の意味を代表するものだとされている。エジソン式発明にはひらめきも必要なのである。エジソンは，自分自身に発明をする真の能力は見当たらないといっている。
要するに，広い好奇心をもちいろいろなことに疑問をもちつづけていると，ある時何かをトリガーとしてひらめいてくる。そのひらめきを種にあとは努力あるのみだといっているのである。事実，エジソンの手法は試行錯誤法とされている。その数ある発明の源泉は各地に多くの研究所を造ったことによるという人もいる。やはりエジソンのもつ他の人と異なる特徴のほとんどは，何としてでも偉業を成し遂げてやろうとする「達成志向力」や「挑戦心」などのコンピテンシーだった。
3. 中村修二氏とコンピテンシー
青色LEDを発明したあの中村修二氏は，四国の日亜化学工業で資金難と戦いながら，日本の大企業が諦めた方式で偉業を達成させた。日経BP社インタビューによれば，現在，カルフォルニア大に移籍し語学の壁に悩むことはあるとはいえ，自分の思うがままやりたい研究・勉学に取り組め満足しているという。その中村氏は，「エンジニアが会社のいいように使われている現状を打破するには，外に飛び出すしかない」とも語っている。また，教育改革にもふれ，元凶は大学入試制度そのもので，入試制度撤廃を提言されている。
中村氏は若い研究者・エンジニアに対して示唆に富んだメッセージを残している。「高い目標を最後までやり遂げようとすることが重要である。また，自らプロセスを注意深く観察することで異常現象発生時に異常やバグと判断せずそれを深く追求し洞察することが重要である。」これらも「達成志向力」、「挑戦心」や「思考の柔軟性（洞察力）」などのコンピテンシーそのものである。
4. プロフェッショナルの能力体系
“プロフェッショナル”に求められる能力は各方面で色々な考え方があると思われる。ここでは、エンジニアに絞り例示する。下図がプロフェッショナルの定義をブレークダウンしてまとめたプロフェッショナルの能力の体系である。この中で、プロフェッショナルに求められる狭義のコンピテンシーとして、「コンセプト力（創造性）」、「達成志向力」、「思考の柔軟性（洞察力）」、「挑戦心」などを強化していただきたい。
図 プロフェッショナルの能力体系